2022年3月に中国で開催された北京パラリンピックのアルペンスキー代表の小池岳太選手をはじめ、全国中学校スキー大会の男子GSで優勝した太谷聖司と男子SLを制した保坂宙の両選手、インターハイの女子GSとSLの2種目を制覇した渡邊愛蓮選手。彼らが所属しているSNOW BUSTERS SKI TEAM(スノーバスターズスキーチーム/以下、スノーバスターズ)は、石井スポーツがスポンサードするスキーチーム。ここではスノーバスターズの代表兼ヘッドコーチを務める富井正一さんに、チームの活動理念や活動方針について聞いていきます
──── スノーバスターズの活動理念、活動目的から聞かせてください。
富井我々スノーバスターズの活動理念は、日本発信、つまりメイドインジャパンで世界と戦える日本人選手をつくることです。雪のある地域とない地域、あるいは健常者、障害者を問わず、世界に通用する選手をしっかりとつくっていくことが基本理念として挙げられます。
──── メイドインジャパンで世界で戦える選手をつくるために必要なものは、何なのでしょうか?
富井世界を目指すことは当然簡単なことではありませんが、ある意味、そんなに難しい、周りと違うことをしなければいけないことでもないと思っています。ですから、スキーの技術であったり、それを磨くためのフィジカルを高めるのはもちろんのことなのですが、それ以外の人間性を高めることがなによりも必要だと思っています。その人間性というのは、例えば応援してもらえる力であったり、誰からも親しまれるような選手になることだったり、スキーという日本ではマイナーなスポーツのイメージを変えられるような活動をしていくことです。これらは特別なことではなくて、ひとりの人間として必要なものですし、この先、社会でも必ず役立つものだと思います。それをしっかり指導していくことが、我々のチームの基本になっています。
──── 今おっしゃった人間性というのは?
富井例えばはつらつと挨拶をすることだったり、何事にも誠実に取り組むことだったり、誰でも平等に接することだったりです。そうすることで誰もが味方になってくれないにしても、敵にはなりにくい。もしも、誰か周りの人が敵になってしまえば、その選手はそこから先に進んでいけなくなってしまうと思うので、そういう心構えを大切にしています。これには日本人的な部分もあるかもしれませんが、メイドインジャパンということも含めて、日本人だということを誇りに、そして、そういうことを徹底して活動していきたいと考えています。
──── メイドインジャパンに対するこだわりは強いのですね?
富井そうですね。どうしても日本人コーチは外国人コーチに劣るというような風潮があるので、我々コーチとしても誇りを持って、しっかり勉強して、世界に通用する日本人選手をつくりあげたいと思います。もちろん、そこには外国人コーチも、外国のメソッドも取り込んでいきますけれど、主体は日本人でしっかりつくりあげていくというのが、メイドインジャパンの意味合いです。
──── チームにはさまざまな年代の選手が所属していると聞きましたが。
富井小学生から社会人まで、熱意のある選手なら誰でも大歓迎です。今、一番下の選手は小学3年生で、一番上は北京パラリンピックに出場した小池選手の40歳です。チームとしてそういう年齢幅でやっていて、ボリュームとしては、今は高校生・大学生が多いという状態です。
──── その幅広い年代の選手を、どのようにサポートしているのでしょうか?
富井今、スキーのコーチ7名とフィジカルのコーチ2名という体制でサポートしています。
──── 年間を通じてのおおまかな動きは?
富井毎年、5月まで雪上のトレーニングがあり、5月から雪上と並行してフィジカルトレーニングが始まります。フィジカルコーチのトレーニングは当然、年間をとおして行なわれるのですが、雪上トレーニングが終わる5月からフィジカルがトレーニングの中心になります。そこでは体力測定が年に3回あり、選手が集まってトレーニングする合宿を今年は3回行ないました。基本的には週末を中心にトレーニングを行ない、地元長野の中学生・高校生は平日も集まってトレーニングをするという形で行なっています。
──── 大学生は合宿のみの参加が多いのですか?
富井大学生が増えたので、昨年からストレングスのトレーナーをお願いして、東京でストレングスのトレーニングを月に2回行なっています。ですから選手たちは、大学でのトレーニングのほかに、そこで体力測定をしていろいろな数値をとり、トレーニングを継続していく形になっています。
──── これからシーズンに向かっていく期間の動きを教えてください。
富井それは世代によってだいぶ違うのですけれど、例えば小学生までは大切なレースが行なわれるのが年明けなので、一番早く始まる軽井沢(プリンスホテルスキー場)で約1カ月間、早朝トレーニングという形でしっかりと滑り込みながら、フィジカルトレーニングも並行して行なっていきます。実はこの2年、コロナ禍の影響で海外に行けなかったので、ナショナルチーム所属選手以外は、全カテゴリーの選手がそういう形でシーズンインしました。
──── 例年の場合、ほかの年代の選手は、どうシーズンを迎えるのでしょうか?
富井通常、中学生はレースが始まるのが1月頭なので、それほど焦る必要ななく、11月から中国遠征を行ない、そこで滑り込みを行なうというのがユースチームの基本的な流れです。ですから、ユース世代の選手は軽井沢と中国の2ウェイで、どちらかに参加するという形でした。
──── シニアチームの選手は、どのような形なのでしょうか?
富井今までの流れでいうと、シニアチームの場合、11月に中国でレースがあったので、10月にまずヨーロッパに遠征に行き、そこで滑り込みを開始します。ここに参加する選手が10%ぐらいで、ほかの選手は11月のレースに向けて中国に先乗りして、中国で2週間ぐらい練習をしてレースに出るという流れでした。
──── 1月から3月の試合期の動きは、どんな形なのでしょうか?
富井全中やインターハイでは、そういうルールもあるので、各学校単位で宿に泊まったりします。ただ、それまでのトレーニングであったり、現地でのトレーニングは、選手個人個人ということもあるので、その場合はサポートします。また、レース当日はインスペクションであったり、レース中に情報をスタートに上げたりということを行ないます。それが中学校から大学までの選手権大会や学校対抗戦での動きになります。
──── 技術的にチームとして大切にしているものはありますか?
富井毎年、今年のテーマという形でビデオをつくったりして選手に告知します。ただ、一番大切なのは基本なので、特に目新しいことを取り上げるのではなく、外向傾だったり、ポジショニングの問題だったり、そういうことをテーマにしてやっています。
──── 今年のテーマは?
富井今年は外向傾を再考するということで、もう一度、外向傾をしっかりと見直そうということを5月に選手全員に伝え、来たるシーズンに向けてやっていこうと伝えてあります。
──── 今のところスノーバスターズの活動は国内が中心になっていますが、今後、チームから世界を舞台に戦う選手が現れたとき、どう対応していきますか?
富井ある程度の成長を遂げた選手は、間違いなく自分が戦う場所に拠点を据えて戦わないと、うまく戦えません。だから、一定レベルを超えた日本人選手は、ヨーロッパに拠点を置いてレースを続けなければならない。そこでその場の環境に自分をしっかりとなじませていけるかという部分で、最初にお話しした人間力が大きく影響すると思います。そして、ヨーロッパに拠点を移す場合も、選手本人の意思が大切です。自分がそこにいって、そこでやりたいと思えるかどうか。それがその選手がヨーロッパで戦えるかに大きく影響すると思います。そのためのサポートはチームとしていかなければならないし、そういう選手が現れてきたら、海外にチームの拠点をつくりたいというのが私の野望です。