スキーヤーとの対談を公開していく「人之の部屋」
記念すべき第一弾は武田竜氏です。

武田竜
1984年生まれ。幼少期よりアルペンレースを始め頭角を現す。学生時代には様々なタイトルを獲得。ナショナルチーム入りも果たしワールドカップを含む国内外のレースを転戦。2014年にアルペンスキーを引退し基礎スキーに転向。2015年には技術選にて初出場で入賞を果たし、2016年には4位の好成績を収め国体では優勝の実績を残す。現在は選手のサポートを活動のメインとしながら技術選に参戦中。

道をそれたり、挫折はある!

斉藤人之(以下斉藤):なぜ、自分がトップアスリートという領域に上がってくることができたのか、人と差をつけてこの位置に上がれたのかを教えてください。
武田竜(以下武田):小学校時代からアルペンを初めてスキーで友達ができて、その友達がやがてライバルになって。そのライバルに差をつけたくて、スキーが上手くなりたい、そこからオリンピックやワールドカップで活躍したいという夢がでてきました。その夢をとにかく追い続けて、そこだけを見つめて、いろんな犠牲もあったし、誘惑もあった。それに負けないように、自分が「スキー」というものだけにとにかく追及してきたことが、やっぱりこの位置にこれた理由だと思います。
斉藤:目標のオリンピックや経験してきたワールドカップ、そこに行くために気持ちはもちろん、何をすればそこに必ずいけるか、どのように決めてきましたか。
武田:出たいとか、目指してるとかそういうものはあったけど、本当に出たいのか、そこまで行きたいのかという時、やっぱりどこかで挫折はするんですよ。心が折れる時がある。でも、僕がワールドカップに出たときは29歳の時なので、もうそれが最初で最後だったんですけど、そこに辿り着くまでの時間の中で、何回も道をそれて遊びに走ることもあったし、でも本当にスキーが好きだった。 頭の中のどこかで目指してるものはまだあったのが29歳までやったっていうことだと思うんですけれど、そこにたどり着くまでに辛い思いもけっこうしましたし、とにかくそこに行きたいと思った最後が、27歳ぐらいのときかな。その2年でなんとかしようっていう、確実に絶対的にそこに行くっていうその強い気持ちとか先行投資もそうだし、もう絶対にそこまで上り詰めるんだぞっていう思いで頑張れたと思う。
斉藤:ワールドカップを本当に目指したいと思ったのは何歳くらい?
武田:本当に行きたいなと思ったのは、たしか中3で日本代表に入って、初めて海外にスキーに行って大会に出て、世界との差というか、ジュニアながらに、まあ日本ではトップでしたけど、出てみたら1本で10秒差つけられるような世界に行ってみて、 あ、これちょっと無理かもって。日本では強かったですよ。負けなしなぐらい強かったんですけど、世界へ行ってみて衝撃受けて。 高校に入ってからも、やっぱりいろんな力つけてくる日本人が出てくるから、そこで負けるようになったりしたら、今まで勝ってた人が負けた時に味わったことがないものを味わうっていうか。それが第一回目の挫折ですね。(16、17歳のとき)。

トップでいる才能よりメンタル80%

斉藤:自分の才能ってなんだと思う?
武田:自分の才能?
斉藤:スキーなのか、メンタル面でトップにいさせる才能なのか。両方だと思うけど。
武田:たぶん能力的に、なんでもできる器用貧乏みたいなところがあるんですよ。だからサッカーやればサッカーもできるし、ゴルフもやればそれなりにできるし、野球だって水泳だってたぶんそれなりにはできるんですよ。
斉藤:全部一通りはできるけど。唯一スキーだけは違った。
武田:できるんだけど、そこにかけたスキーは、努力次第でそこまでちょっと抜けれるようなとこではあったと思うんですよね。 やっぱ技術と体力は覚えるとか、学ぶとか、やればできることだとは思うんですよ。でもメンタルって、すごく難しいところだと思う。 勢いにのっちゃえばいけるし、けど勢いが止まったときにどういう風に考えて、またリセットして、リスタートするのか。 やっぱり僕の中で8割がメンタルなんですよ。スポーツはメンタルですね。

波、自分の調子

斉藤:なんで成功したかの裏付けって何?
武田:1年間通して、自分のリザルトも見るし、自分の1年間の調子の波も自分で考えればわかるようにもなる。 12月はいいとき。で、1月になったら下がる。そして3月になったらまた上がる。こういう波って必ずあるから、その波を自分で掴んでコントロールして、どこにその試合が、目指す試合がいつなのか、調子の波をそのタイミングにぶつけるにはどうやって過ごしていかなきゃいけないのか。
斉藤:基本的に(調子は)揺れているのが前提であって、波のサイクルを調整して、自分の出したいところに合わせてそのピークを作っていく。基本的には波って絶対あると思う?一定は無理だと思う?
武田:無理だと思います。
斉藤:絶対波はおきる?
武田:ずーっとスキーをしてきて、気分が乗らないときもあるし、今日すげー気分がいいけどスキーがすごくうまくいかないとか、全然かみ合わないとか、そういうときもある。その波は必ずあって、例えば普段12月すごく調子いい、でもこの波を 本来1月にぶつけたい。そしたらそこをコントロールして、今調子上げないようにとか。今、滑んなきゃいけないけど、そこをちょっと抑えてじっくりベース作りをしようとか、メンタル的にちょっと抑えとこう、とかはありますね。
斉藤:1年間の中で、またこの波になっちゃったなーとか、定期的に同じサイクルにはまりそうになるときってある?
武田:やっぱり気づかないときはそうでしたね。
斉藤:自分の特徴みたいなのってみえる?この時期に必ず俺ってこうなるなみたいな。
武田:はい、あります。
斉藤:それもわかった上で、その波の時期はずらせる?
武田:はい。まあそれはでも、経験積んでこないと。 だから若いうちは無理ですよね。勢いとか、自分で考えるよりも感情で動くとか、頭使うっていうよりも、本能で動くとか。 経験してくれば、頭使って、自分の弱い部分とかを補うように、強くする為にそっちを優先してく。
斉藤:波ね。僕達ももデモンストレーションとかして、みてほしくないタイミングでみせなきゃならなかったりとかはありますね。 波の低い時にレースがくる場合もあるよね。 その時のレースに対しての臨み方っていうのは?諦めてるわけじゃないと思うけど。
武田:ダメなんだけど、その1分後には良くなるかも。
斉藤:それはスタート前ってこと?スタート直前には?
武田:朝とかのアップとかでも、やっぱ調子ピークに悪いときにでも試合はくるから。そのときに、やぁーダメだで、朝行くのか。ダメですけど ね。スタートした一旗門目には、ごろっと変わって調子が上がっているかもしれない。まあ結果的には上がらないんですけどね。 でもそういうメンタルコントロールっていうか、自分でいい方向いい方向へもっていきます。
斉藤:朝のアップで、今までと違う流れが起きたっていうことを、今までの経験の数でいったら叶ったことのほうが少ないんだよね?
武田:少ないですね。
斉藤:でもそういう風に思って?
武田:思うし、そこで急に変わることもあったりします。

弱さを顔に出さない

斉藤:ラッキーもあるしょ?やっぱり。周りが崩れたりとか。人との結果は気になる?気になるだろうけど、どういう風に受け止める?
武田:自分が1位で折り返したときに、スタート前に3位の選手のタイムぐらいは聞こえるんですよ。すっごくいいタイムが出て、ああ、1秒も2秒も早いなって。今までの何人よりも。その時に、ああやばいって思うのか、冷静に自分の滑りすれば コンマ1秒でも勝てるかもしれないって思うのかで変わります。
斉藤:自分の滑りに専念すれば勝てることに集中するか?それに対して計算して、勝つプランで実力のほうを重視するか?そこに迷いは?
武田:昔はありました。焦りとか、やばいどうしようって。 今でもちょっとやばいとか思うときもあるし、けど、顔にださないようにとか。表情を変えないでいきます。

[ネガティブ]は考えない

斉藤:メンタルが重視されてきてるんだけども、成功する為に自分で組み立てていくと、必ずそれは成功につながるっていうのは自分の中である?
武田:1年間の流れ。自分がいつどういうときにこうなるのか、それがメンタル的にこうだから技術が崩れてくのか、気分が良いから技術が上がっていくのか。それはなんか流れというか、1年間の自分でしかわからないことじゃないですか。いくら人に言われてもわからないし、自分で自分を1回見つめ直して、良い時悪い時を見極めます。
斉藤:いいことばっかり考えてちゃいけないってことだね。自分の落ちることも予測する?例えばそれはネガティブな要素なのか?ポジティブな要素なのか?自分でネガティブ要素とは捉えないの?
武田:なるべく考えないようにしますね。
斉藤:でも事実的にはネガティブな要素だって自分で分析するけど、今自分がやるべきことに関しては、ネガティブ要素じゃないものなの?
武田:必ず思うのは、これやってみようかなとか思った時に、どうしても頭ん中では最初にあ、無理かもって思います。
斉藤:え、そうなの?
武田:まあこれでもこうやっていってみたら、いいかもしれないなって思うけど、自分の中ではちょっとリスクがあるから無理かもって思うとか、なんかこう、無理な発想から最初に入ってくるのが普通だと思うんですけど。それをいかにポジティブなほうに頭を変化させていけば、それを抜け出せるように自分でコントロールはできると思うんですよ。

練習を最大に!

斉藤:具体的に、大会でプレッシャーがかかってきて自分のやりたいことって、いつも100%に対して何%大会で出てる感じ?
武田:僕は練習では常に100%出てます。でも大会では、100%では滑れないんですよ。
斉藤:マイナスする?
武田:はい、常に80%とか。常にそれぐらいで滑っても100%で滑っても、リスクが大きすぎるんですよ。 けっこう、気持ちが盛り上がってしまったら、地に足ついてない状態で、うわーっていっちゃって失敗することのほうが多いです。
斉藤:意外だな。そういう経験はしてるんだね。
武田:それを、繰り返し繰り返しやる選手もいる。なんでそれ毎回やるんだ?って思われるようなことをやってる人もいる。そこを一回で失敗しないように学習しなきゃいけないです。
斉藤:それを見ててね、アルペン選手、俺のイメージはサラッとこなすタイプで冷静に見えるんだよね。でもやっぱり少しずつアグレッシブに竜の動きがでてくるから、見てたら緩急じゃないけど憎いところがいっぱいあって面白いんだよね。それが魅力でもあると思うし。練習ね、きついよね。大会のプレッシャーはメンタル面だけかもしれないけど、肉体的には明らかにトレーニングのほうがきついよね?
武田:はい。
斉藤:敢えて練習はきつくて当然って思って滑る?
武田:はい、とにかく練習で、完璧なことしないと試合で絶対それは出ないから。試合って絶対に自分が今の技量以上のことは出ないから、そこを練習で積み重ねて、上げてくしかないですね。
斉藤:100%を超えるようなトレーニングってやるの?
武田:雪上でですか?1回は試してみます。ポールの中でも1日で10本滑るって自分で決めちゃって、その10本のうち、8本ゴールする、10本ゴールするって。100%完走率あげるとか、そういう練習をして、自分のタイムとこのぐらいで滑ったときはこのタイム、で、もう一回滑ってもうちょい上げていったときはどのくらいか、とか。周りには人がいるんですよ。選手。人のタイムは気になるけど、比較よりも自分との比較。自分自身の戦いしかしてなかったです。
斉藤:基本的には、一つの技術が凄く幅広く。
武田:もう、常に状況が変わるから、その目の前に起きてる状況判断を常にしとかなきゃいけない。準備ですよね。そこにまんまとハマってしまえばそこでロスだし、その試合が終わってしまいます。常にそういう状況判断をするために、練習で、誰でも滑るようなところで、みんなが一緒に滑ってるところでイレギュラーが必ずあるから、その対応に時間を使うっていうか、そこも重要視して練習します。
斉藤:でも、瞬間的なセンサーだよね。予測しているラインと来る抵抗、その一瞬のうちにいざそのポイントを通過するときに出てしまう結果と、 いろんな葛藤があると思う。そのあたりの自分の調整っていうのは?
武田:もう足元を、というか、本当にパッと目に入ってきた状況であぁここいったらまずいと思ったら、そのターンが少し遅れようが、そこを無難に通過することだけを考える。そのときに対応します。
斉藤:戦わないで余計なリスクを背負わない?
武田:はい。無駄に攻めて失敗するリスクを考えて、タイムにそれが影響するっていうのであれば、無理しません。
斉藤:足裏の感覚がベースのスキーヤーだよね。
武田:基本的には母指球からかかとまでの動きだから、始まりはやっぱり指先からだし、ターンに入っていくときに何かがみえたら、先っちょに敏感に反応していきます。
斉藤:そこからその状況に合わせて、対応してく。
武田:はい。

耐えられる力を持つ

斉藤:スキーのメンタル面がすごく重要だなって聞いて、自分を高めるための割合もちょっとみえてきたんだけど、基本になってるところは、ハートはもちろんだけど、自分の体を自分でどういう風に、やっぱり眠い日もあるだろうし、人間だから当然毎日の中で おきることもあるだろうけど、そのあたりはどうやって自分で管理してる感じなの?
武田:まあトレーニングは必要じゃないですか。でもやりたくないときもある。でもやらなきゃいけないっていうことです。
斉藤:やって当然って感じ。
武田:あと、乗らないときに思うことは、こういう気持ちでやってないときに、他の選手はやってるって思うようにしてる。この1日無駄にしてる自分が、今、同じタイミングでやってるその人に追いつけないって。
斉藤:差になっちゃってるってね。
武田:スピードアップ、自分の滑るスキーに対してのスピードアップをしたいのであれば、やっぱり自分のからだを支える為の筋肉がないといけないですよね。そのために夏場おもり持つとか、で、耐えれる力がないと、スピードがあがらないと思います。身体とメンタルを結果につながるように自分でつくっていくことが1番大切だと思ってます。
斉藤:すごくやる気にさせられるお話でした。ありがとうございました。

武田竜さん、本当にありがとうございました! 次回も素敵なゲストとの対談を予定しております。
お楽しみに!