登山靴技術研究所 vol.1

石井スポーツ本社には、「登山靴技術研究所」という看板を下げた製靴工場があります。

石井スポーツには、「登山靴技術研究所」という看板を下げた製靴工場があります。登山靴を中心とした修理・製造全般を行っています。多分、業界では珍しいことではないでしょうか?

弊社は、登山用品全般を取り扱う小売店のイメージを持たれていらっしゃる方が多いと思いますが、実は紳士靴で創業した企業です。現在は、登山・スキー用品の販売を行っていますが、当時からありました製靴工場が何度かの引っ越しを経た今でもございます。

石井スポーツの原点は、この「製靴工場」にあるといっても過言ではありません。

創業当時からの諸先輩方のDNA、モチベーション、そして登山に対する愛情が詰まった、この石井スポーツのベース基地となる製靴工場を今回はご紹介させていただきます。

        

登山靴ができるまで

        

        
       

<「登山靴技術研究所で働く、こだわりの岳人」リポート Vol.1 目次>

        

※記事内容は取材当時の情報です。現在は異なる場合がございます。

「登山靴技術研究所で働く、こだわりの職人」リポート

それでは、この「登山靴技術研究所」に関しまして、実際製靴工場で働いているスタッフから、ディープな生リポートをお届けいたします!

今回の「石井スポーツで働く、こだわりの職人」

製靴職人の中 真人です!

今回は、この「登山靴技術研究所で働く、こだわりの職人」として

遠い昔話を交えてお話させていただきます。

是非、ご一読ください。


中 製靴職人の略歴

一番なりたかったのは、「宮大工」だったんですよ。

私は、昭和34年1月14日、和歌山県の田辺で生まれました。そう、田舎ですね。高校3年生の時に進路を決めなければいけなかったのですが、その時一番なりたかったのは、「宮大工」だったんですよ。でも約42年前の和歌山の高校生が有名な宮大工の西岡さん(※)のところに電話する勇気もなく、当然電話番号もわからないし本気になれば調べられたかもしれないけど・・・まあ、どうしようか迷っていました。(注※)西岡 常一(にしおか つねかず)は、法隆寺専属の宮大工

しかし、通っていた高校は進学校で成績もそれなりに良かったので、実は「薬剤師」か「建築士」を目指していました。ただ、建築の方は母親の実家が土建屋さんをやっていて、親戚のおっちゃんに仕事の内容を聞くと商売の裏話などを聞いてしまい、ちょっとその道は断念しました(笑)もうひとつの薬剤師の方も、動物実験などの生々しい話を先輩で働いている人がいたので詳しく聞いていました。ですので、それもいやだなあ・・・と。その時に、たまたまうち(石井スポーツ)のカタログをもらったんですよ。それを開いたときに、登山靴職人の仕事が載っていました。これが運命のきっかけとなりました。

そのころ生物部というクラブで野鳥観察をしていました。その関係でよくリュックを背負って山に入っていたので、それで「これやってみたい」と思って、会社に電話したら「一度見に来なさい!」ということになり、とんとん拍子で夏休みに会社見学に行って、即座に「やります!」と決めました。

実際の製靴工場は時代的にもきれいな製靴工場ではないので、半地下みたいな所で薄暗く、そして埃まみれでした。「これを見たら、諦めるだろう」と会社は思っていたようですが、結局即入社になりました。

ちなみに、あの当時「週刊プレイボーイ」を毎週買って喜んで読んでいたんですけど・・・その左端のところに「カタログ送ります」という広告が載っていました。たしか当時350円かの切手を同封して送ると、カタログが送られてきました。その時にもらった運命のカタログは、まだ製靴工場にありますよ。見せましょうか?(笑)

いずれにせよ、週刊プレイボーイのおかげでこの仕事が始まったわけです。

誇るべき技術力

負けず嫌いなので、基本的に“できない”と言いたくない。

靴に関しては、基本的に全部自信あるんだけど(笑)負けず嫌いなので、基本的に“できない”と言いたくないんですよ。
スキーブーツのインナーの加工も、10年位前からやっています。昔の話ですが、自分が会社に入ったころはスキー靴の修理は全部製靴工場でやっていました。バックル交換から始まりましたが次第にお店に専用の機械が導入されて、そのおかげでお店で対応できるようになりました。

現在ではスキー靴のフィッティング向上のための加工改造も行っていますし、頼まれればなんでもやりますよ!ザックでもやるし。
だって、“できない”ってかっこ悪いですし。

仕事の大変さ・つらいこと・やりがい

1日も「会社に行きたくない」って思ったことないですもん。

うーん・・・(長考の末)、ないね(笑)ずーっと、楽しくてしょうがない。まあこれ、多分自慢できるんだけど。会社入って今42年目ですけど、1日も会社に行きたくないって思ったことないですもん。うちの会社の連中、結構人が良くっていいなあと思います。あとはこの仕事だからっていうわけではないけど、単純にお客さんに喜んでもらえる。

特に相談会で、うまくいった時なんかは後でお礼の手紙くれたり、メールくれたりしますんで、それはすごく嬉しいですね。

靴への想い(大切さ)

靴をパーフェクトに作れるロボットになりたいわけですよ。

えーと、自分の場合は、突き詰めると要するに
「靴をパーフェクトに作れるロボットになりたいわけですよ」
自分が一番興味があるのは、自分の「技能」なんですよ。

もう本当に完璧を目指しています。まだまだ、そこにたどり着けませんが。

でも本来的には、そういうことなんですよ。産業ロボットはどんどん進化してきます。

ですので自分の技能も、なんせ高めたいというのが今まで仕事を続けてきて思ってきたことです。
でも、それが結果的にはお客さんの得になると思っているんですよね。

昔と今の違い(時代の変化)

軽量化への進化とコストパフォーマンスの向上

軽くなった、安くなったというところですかね。でも、お客さんは今でも高いって・・・まあ、昔は知らないので目の前の金額で高い、安いになるので。また、工法も変わったおかげで軽さの進化はすごいですね。絶対軽いほうがいいと思うので。ただ、違いは昔の登山靴というのはやっぱり値段も高かったんで、1足で一年中使ってたんですよ。厳冬期の長期縦走とかは別として、基本的に1足で一年中使っていた。今はシーズンにあわせてとか登る山に合わせて、2足、3足持つという方も結構いるようになってきたんで。

で、一番の違いは、うちで作っているハンドメイドのオールレザーの靴っていうのは、使えば使うほど、味が出てくるんですよね。今の靴っていうのは、やっぱり消耗品なんです。いくら手入れしても何しても、味はでてきません。で、内部に入っているゴアテックスのブーティーという防水素材が未来永劫もたないので、それがだめになった時には、いくら上がきれいであっても雨の日になると濡れる。昔は登山して濡れるのが当たり前だったんだけど、今の時代はそれをお客さんも極端に嫌うので。

中 製靴職人からのお客様へのメッセージ

やっぱり登山を愛する皆様には、『靴に興味を持ってほしい』ということですね。
本当に心から可愛がってやってほしい、と常々思っています。

今の靴は技術の進歩で、“ほぼ手入れフリー”というようなことにもなってきていますが、やっぱり手入れは必要ですからね。
だけど実際、最近の登山靴はそんなに手入れをしなくても大丈夫なんですよ(苦笑)
でも、山から帰ってきたら、その靴を直接自分の目で見てやると、「あれっ」と何かの異変に気付くことがあるのでとにかく興味を持ってほしいですね。

あと、現在、ハンドメイドの登山靴制作、修理、相談会参加などで結構忙しくさせていただいております。
0から靴を作ったり、毎回違った課題に挑戦したりと。でも、本当にやらなきゃいけないことがずーっと続くので、それを何とかこなしているというのが本当のところですね。
お客様との直接のコミュ二ケーションが取れる相談会も非常に有益な時間です。
もし、機会がありましたら相談会でお会いできることを楽しみしております。

それとですね、修理を頼まれた時も、「手入れをすごくしてくれているな」という靴に巡り合えると、嬉しいですよね。
やっぱりそういう靴になるとこっちも修理するときに、きちんと仕上げなきゃいけないという意識がより高くなりますよね。

ところで今、当製靴工場では3人体制(9月から1人加わり、4人となります)で仕事を行っております。多分、年間2000件くらいの作業をこなしていると思います。そのうち、ハンドメイド制作は、年間10〜15くらい。金額的には、タウン用のもので・・・多分4万7千円くらい。一番高いもので16万くらいです。実際問題、±ゼロです。利益はありません(会社には言いづらいですが・・・)。
でも、オーダー靴に関していうと、実は売り場の担当スタッフには、あまり金額を上げないでくれと伝えています。 実際、お店で売っている36,000円の登山靴をすごい高い!というお客さんがいるので、お金持ちしか買えないような靴にしたくないんですよね。時々、「もうちょっと金額あげればもっと売れるよ!」とお客様から言われることもありますが、それは嫌なんですよ。

こんな感じで、製靴工場で仕事をしておりますが、まずはぜひ、店舗に行っていただいてご自分にぴったりの登山靴を見つけていただくことを願っております。そして、使いこなした後に不具合が生じたら、捨てるのではなく、ぜひ、修理して復活させることができることを覚えておいていただければありがたいです。ありがとうございました。

<次回のストーリー>

次回は、靴職人として働いている、3人のスタッフにフォーカスを当ててご紹介致します。

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