おすすめの山 「三宝山」
今月は奥秩父の三宝山を紹介しましょう。
木暮理太郎著「秩父の奥山」に、三宝山(真ノ沢山)、甲武信岳、木賊山(雲切山)の項で「甲武信岳の絶巓(ぜってん)に初めて立った時、何よりも先ず意外に感じたのは、附近第一の高峰であろうと信じていた此この山の北に近く、われを凌駕する無名の高山が、儼然(げんぜん)として聳えていることであった。」と記述されています。
このとき、木暮理太郎たちは信州梓山から千曲川の源流沿いに甲武信ヶ岳に至っていますが、近年この登山道はふもとに毛木平の駐車場が整備され、車で登山をされる人にはすこぶる便利なところとなりました。一方、木暮の記述では、今では地図に載らない三宝沢沿いから三宝山に至る道・甲武信ヶ岳との鞍部に出る真の沢沿いの林道が出てきます。
今年、いにしえの謎を秘めた三宝山にみなさんも訪れてみませんか。
おすすめのコース(読図力・廃道認知能力・ロープワークに長けた人限定)
1日目 信州毛木平~十文字峠~股の沢林道~柳小屋(避難小屋もしくは真の沢分岐でビバーク)
2日目 柳小屋~真の沢林道~千丈の滝~2420m合流点~三宝山往復~甲武信岳~水源地標~毛木平
【コースの特徴】
股の沢林道はずいぶん整備されていますが、倒木などで通過危険個所があるので注意が必要です。途中鉱石採掘の粉砕具などが放置された作業場跡や山の神の祠など、歴史を感じながら下ります。
真の沢林道に残る苔むした木道
柳小屋は良く整備された避難小屋ですが、釣りの方も多く利用されているので、定員以上となった時の対応で、ツエルトなどを活用できる用意をした方が良いでしょう。
真の沢林道は明治42年に整備されて以来、多くの人に利用された道ですが、今は踏み跡も途絶えがちの廃道です。地形図上の道は正確でなく、微かにつけられたテープを頼りに進むことになります。
打ち捨てられた鉱石粉砕器具
ヤマレコなどでGPSの軌跡を見る等、事前調査を入念にされてから入山をお勧めします。しかし、難路であることを差し引いても奥秩父の深山を味わうことが出来る素晴らしい道です。そしてこのコースは太平洋にそそぐ荒川の原流と日本海にそそぐ信濃川(長野県では千曲川)の原流を訪ねる旅でもあります。
信州往還道の五里観音
千曲川原流の滝
秋山の快適登山術
なぜ秋になると日暮れが速く感じられるのでしょうか。
地球の自転スピードは一定ですから、秋の夕暮れ時に特に回転が早くなるわけではありません。皆さんは太陽が沈んでもすぐに真っ暗にならないことは経験上ご存知と思いますが、この日没から夜空に星が瞬き始めるまでの時間を、天文薄明継続時間と言います。
秋には日没後の薄明継続時間が夏より10分ほど早くなるので、秋の日没はつるべ落としといわれるのでしょう。8月の頃は19時過ぎまで行動が可能なほど明るいですが、10月になると17時を過ぎるとすでに暗くなり行動できません。その差約2時間、夏と異なり、あっという間に闇に包まれてしまします。登山ではヘッドランプとツエルトは季節を問わず必携品ですが、特に秋から冬にかけてその重要性は高まります。
当然照射力が高いほど照射できる時間が少なくなります。あるモデルの場合、最大照射が450ルーメン(夜間のバリエーションルートの行動が出来る)では2時間、100ルーメン(早朝のテント撤収・早朝の行動が出来る)8時間と照射時間は大きく異なります。
多くのヘッドランプには照射力を調節できる機能が付いていますから必要な明るさで使用することが大切です。また、MAXの照射力が400ルーメン前後でもメーカーにより、初回点灯時の出力が異なります。点灯時の明るさを確認し、必要な照度に調節してから使用するのがコツです。
自分のヘッドランプの電池規格と必要本数の確認が大切です。規格を間違えることは論外ですが、本数の不足により古い電池を混ぜて使用すると強制放電で、液漏れや破裂して大変危険です。
筆者の経験ですが、11月末に不意の降雪で夜間登攀を余儀なくされた。途中、予備電池も使い果たし、ヘッドランプが使用不能。山頂から手探りで下降路を見出し命辛々下山したことがあります。山の中は漆黒の闇です。電池の交換が必要になった時や故障した時のことを考えて予備のヘッドランプを用意しましょう。重量の気にならないモデルもあります。
近年ヘッドランプは高照度化が進み、各種機能が充実しています。特に重要な機能は誤動作で点灯することを防いでくれるスイッチのロック機能でしょう。電池の消耗を防ぐ照度の調節機能に加えて、自動にON・OFFが出来るセンサー機能や自動的に焦点距離を調節する距離センサーが搭載されていると重宝するでしょう。過酷な条件で使用する人は防水性を向上させたものや、頻繁に使用する人は充電が出来るモデルも選択肢に入れておきましょう。
ヘッドランプに装着可能な大容量リチャージャブルバッテリー。USB ポートよりスマートフォンなどと同様に充電が可能。
ツエルトは強風時の休憩や体温保持のためにかぶって使うのが便利に作られていますが、もとはウインパー型テントを原型としているので、支柱があれば立派にテントとして使用できます。樹林帯であれば立ち木を利用してもOKです。いずれにしても張り綱を付けて、四隅のループには50センチほどの細引きを付けておけば慣れた人ならば5分もあれば立派なテントとして設営可能です。
別売りの張り綱、ポールを利用すれば軽量テントにもなる。
近くの立ち木や石を活用することもできますが、底部の四隅用に軽量ペグを準備すると設営が素早くできます。加えて張り綱用に4本計8本あるとどこでも設営が可能となります。
軽量ペグは1本10g以下なので80gがいざというときに大きな力になる。
日帰り登山でも危急時に備えてダウンジャケット等の防寒具を持参するのは常識ですが、加えてシート・マット等で地面からの冷えの遮断が重要です。休憩時も快適で、いざとなれば副木の代わりにもなる優れものです。また、休憩時に携帯コンロを持参して山ランチはいかがでしょう。フリーズドライのスープ・味噌汁に加えて、なんとチーズリゾットや野菜カレーと様々なフリーズドライの食品が発売されています。大変軽いので予備として持っておけば、非常時に大変役立ちます。道迷いなどで日没となった時に一番危険なのは焦りの心です。家「ツエルト」もあるしご飯「コンロセット」もある、今日はキャンプを楽しもうと思う余裕が命を守ります。
軽くてたためる携帯用座布団。休憩時も快適に過ごせる。
スマートフォンの普及とGPS機能を活用したアプリの開発、通話圏の拡大で、多くの人が携行するようになりました。一方、予備電池の問題や低温下での電圧低下など、折角の緊急時のツールでありながら、十分に機能させていない例も見受けられます。予備バッテリーの携行と、電圧低下を防ぐ携行方法(特に秋から冬には重要です)を工夫しましょう。また緊急時に備えて、「ココヘリ」「イリジウム衛星ネットワークを利用したGPS」などの緊急対策・通信用具の携行もお勧めです。
気候変化の激しい秋の登山は自然の厳しさと美しさを兼ね備えたすばらしい季節です。準備工夫を怠らず、すばらしい登山をされる事を願っております。加えて、町の観光課や自然保護センター・山小屋など様々な機関が情報を発信していますので、登山前によく調べましょう。
皆様がすばらしい登山をされる事を石井スポーツスタッフ一同願っております。